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「ここはどこ?」
「ここはお父さんのお兄さんのお家よ」
「お父さんのお兄ちゃん?」
「そう」
なんとも不思議な場所だった。
たくさんの大人がいて、たくさんの子供もいる。
遊ぼうよと声をかけられるけどなんだか怖くて母の横から離れられなかった。
何人かの大人にあのあいさつをして母と父はひたすら大人同士でおしゃべりをしていた。
つまらない
そんな風に思った時に池のことを思い出す。
どこかに行けばあそこに行けるのかもしれない。
母の目を盗んでそっとその場を抜け出してみる。
家の中は全体的に薄暗くて、床が冷い。キョロキョロしてみてもさっきいた場所にしか光がなくて立ち往生してしまう。
池が見たい、楽しいところに行きたい
そんな欲求が自分を支配する。
「小さな迷子さん、どうしたのかな?」
暗闇からぬらりと声をかけてきたのは、知らない男の人だった。
顔はよく見えなくて、しかも男の人なのに浴衣を着ていて変だと思ってしまった。
後々にそれが男性用の着物だと教えてもらえたけど
当時は、誰だろう、知らない、おばけかなと勘違いしてしまう。
今になって恐怖心がぶり返してしまいまた指を口に咥える。
「あぁ、ごめんね。驚かせてしまったかな……確か君は明彦おじさんの子供だね」
あきひこ?私はその問いにうんともすんとも答えなかった。
「分からないよね。えっと、名前はなんて言うんだっけ?」
玄関であったおばさんと同じように私と目を合わせてくれた。
男の人なのに母よりも綺麗な肌をして、綺麗な黒髪はまるでお人形みたいだと幼い私でも見惚れてしまった。
優しく笑いかけてくれる彼にすっかり虜になった私は、言われるがまま名前を口にする。
「ゆり……」
「そう、ゆりちゃん。僕は冬馬。冬の馬と書いてとうま」
「と、うま?」
「そう、僕と君はね従兄妹だよ」
それが私と冬馬さんの出会いでした__
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