呪文

3/7
500人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ
  「それで、私はなにをすれば……」  いいの? という言葉は冬馬さんによって遮られてしまう。  彼は舞台袖にゆっくりと2、3歩あるきこちらを向いて手招きしてくるので、誘われるがまま彼についていく。  まるで綺麗な幽霊にこっちこっちと誘われているような感覚  不安や恐怖あるけれどつい期待してしまう__ 「ここで座っててね」  冬馬さんは、4つ並んだパイプ椅子のところまで連れてきた。  ここ? ここに座って何をすれば良いのか見当もつかなかったけど、言われるがまま邪魔にならなさそうな1番右の椅子に座ろうとした 「百合ちゃんは、ここだよ」  冬馬さんに肩を抱かれてしまい、強制的に座らされたのは左から2番目の椅子だった。  そこは舞台の中心が、よく見えて特等席のような位置だった。  私の右には冬馬さん、左には萩原君がその隣に熊谷さんが腰掛ける。  何とも不思議な席順だ。普通ここは熊谷さんが座るべきじゃないのか 「あの冬馬さん、ここは……」 「シー……始まるよ」  人指しを口に当てる動作をして、冬馬さんの目線は舞台の方にいってしまう。  私は不思議で隣にいる萩原君と目を合わせるけど、彼も首を左右に振り冬馬さんの意図が分からない様子だった。  目の前のことに皆が集中している中、私は隣の冬馬さんの横顔を盗み見てしまう。  薄暗くて助かった。きっと明るかったらこんなに長い時間、見つめることは出来ない。  少しでも体を動かせば彼と触れてしまう。  昨日あれだけ触れ合えたのに、もっと、としょうもないどん欲が生まれてしまう。  自然と右手が動いてしまった時……  "それではさっそくですが、各流派を代表して三名の方に実演していただきます、最初に萩原流代表 萩原 真斗さん。お願い致します"  萩原君の名前が呼ばれて私はハッとして、少し動かした右手を元の場所に戻した。  こんな時に何をやってるんだ……右手の甲を少しつねる 「よし、じゃあお先に行ってきます」  萩原君は立ち上がって少し緊張しているのか、ぎこちない笑顔を見せてくれる。 「おう、行ってこい」 「頑張ってね」  私と熊谷さんが声をかけると、少し緊張が溶けたのかはにかみ小さく頷く。  
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!