社会人として

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「それで、お前正月はどうするんだよ?」  行きつけのバーでビールと少しのつまみで俺達は仕事の愚痴やらを話し込んでいた。そしてふいに吉田からの話題に眉をよせてしまう。 「正月? 別に特別やることなんてないけどな」 「実家に帰ったりしないのかよ? 確か愛知だっけ?」 「あー……実家ね」  専門学校を卒業して、22歳で東京に上京してきた。  社会人になると時間なんてあっという間に過ぎてしまい、実家を出たのが一年前のような感覚だった。 「なんだ帰ってないのか?」 「そうだな、こっちにきて一度も帰ってないかもな」 「ってことは、4年も帰ってないのかよ?」 「あー、そうだな」  指折り確認して相槌する。  吉田はおいおいっとボヤいて残ったビールを一気に飲み干した。 「さすがに親御さん心配してるんじゃないのか?」 「いやー、電話はときどきしてるしな。そういうお前は帰ってるのかよ?」 「俺は育ちも東京だからな、正月ぐらいは顔をだしてるよ」 「ははっ、それはごくろーさん」  最後一粒のカシューナッツを口にする。 「毎年帰れとは言わねぇけどさ、今年は帰ってやったら?」 「あ? 今からじゃ新幹線空いてねぇよ」 「愛知までなら2時間ぐらいだろ、座らなくてもなんとかなるだろ」 「お前、馬鹿じゃねーの?」 「いーや、今日はココ奢ってやるから正月に帰れ! いいな?」 「めんどくせー」 「馬鹿、社会人として親孝行は義務だぞ」  冗談だろと鼻で笑うが、吉田の顔は本気だった。 「絶対親は喜ぶから!な! よし勘定だ!すいませーん……」  そしてマジで奢られてしまった。  ほろ酔い気分でアパートに戻ってベットへ倒れこむ。  実家ね……  電話口の母さんは元気そうだから心配ねぇし、父さんは……  そういえば父さんの声、全然聞いてないな…… 「あーっ、くそ!吉田のやつ……」  とんでもない提案しやがって、なんか気になって気持ちよく寝れねーよ  スマホで時間を確認すると夜の21時を過ぎていた。  母さんまだ起きてるかな?  自然と指は着信履歴の母さんを探していた__
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