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増毛の特効薬を開発したエス社長は最近になって不安を抱えるようになっていた。
会社は順調に売り上げを伸ばし事業を拡大していたが、エス社長があまりにも浮かない顔をするために、社員は心配していた。
「どうかされたんですか?」見るに見かねた秘書が心配そうに声をかけた。
「うーむ。ちょっとねえ」エス社長はため息をついて腕組みをした。
「なんでもおっしゃってください」
「我が社の増毛剤はその成分が企業秘密になっているだろ」
「はい。社長以外誰も知りません」
「残りわずかなんだ」エス社長は部屋の隅に置かれた木箱を指差した。
「あの箱に成分の秘密が入ってるんですか?」
社長は木箱に近づくとポケットから鍵を取り出してフタを開け、中から古びた人形を取り出した。
「髪が伸びる呪いの人形だよ」
「それって……病に侵された幼い少女が大事にしていた人形で、治療の甲斐なく少女が亡くなると、残された人形の髪の毛が伸び続け人々を震え上がらせたというあの呪いの人形ですか?」秘書は後ずさりしていた。
「詳しいね。まさしくそれだよ。もう髪の毛がほとんど残っていないけどね」
「もしかして増毛剤の成分ってその髪の毛だったんですか?」
「そうだ。君は勘がいいね。この髪の毛を粉末状にして水道水で薄めたのが我が社の増毛剤なんだよ」社長はすべてを白状して、ソファーに座り込んだ。
「つまり購入者は頭皮に呪いをかけられていたんですか?」
「解釈は人それぞれだよ。結果的に髪の毛が生えてくるのだからいいだろ。でもこの人形の髪の毛を使い切ったら、この会社は終わりだ。新しい人形を見つけてこないと」
「大変じゃないですか! 早く見つけないと会社が倒産してしまう」
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