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「は?」
「ごまかす必要はない。ずいぶん訓練してきたようだが、体臭が少し違う。蒲田君ではない。だとすれば誰か?私の命を狙ってやってきた殺し屋かな?」
一瞬の逡巡。
「その沈黙。どうやら当たりだったようだね。微妙な違和感だったので鎌をかけたんだが、本当に当たりだったとは。今度からは臭気センターもセキュリティに加えておく必要があるな」
「脱出は無理だよ。君が入って来た時点で、ドアにはロックをかけてある。窓ガラスは硬質ガラスだから割ることも不可能」
完璧にバレた。どうする?
だが会長の次の言葉は私をさらに驚かせた。
「心配はいらない。警備室には連絡などしない。少し話をしないかね?コーヒーはどうだ?」
「は?」
「コーヒーだよ。それとも紅茶の方が良かったかな?」
「いえ、そういう問題ではなくて・・・」
「ここまで侵入してきたのは君が初めてだ。許してしまった以上、逃げも隠れもしないと言っているんだよ」
「ブラックでいいかね?」会長はからコーヒーをカップに2杯注ぐと、私の目の前にあるソファーに座り、コーヒーをすすめてきた。
観念するしかなさそうだ。会長の前に座り、向き合った。
「さて、何から話したらいいかな」
会長は右を向いて、少し考える様子を見せてから尋ねてきた。
「今回の仕事、依頼人は息子だろ?」
「お答えすることはできません」
「まあそうだろうなあ。しかし、ここへ侵入を許したということは、セキュリティシステムへの侵入が必要だ。そのためには内部から手引きした者がいるはず。動機があって、手引きができるのは息子しかいない」
「お答えするわけにはいきません」
「バカなことをしたものだ。大金を払ってこんな回りくどいことをしなくても、直接談判すればいくらでも継がせてやったのに」
と会長はつぶやき、コーヒーを一口飲んだ。
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