0人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにね、ぶっちゃけると、一年前『組織』から連絡が来た。私を殺すために息子が殺し屋を雇おうとしていると。そして息子が雇おうとしている殺し屋は『組織』の中でも1、2を争う程の腕だから、絶対に逃れることはできない。猶予をやるから、死んだ後の始末をしておけと言われたよ」
「組織」とは、この国の政財界の大物が作ったという裏の組合だ。私は一応フリーだが「組織」から仕事をもらうこともある。
「『組織』から連絡があったのですか?会長はターゲットですよね?依頼人や、私に対する裏切りになりませんか?」
「『組織』が何を考えているのかなんて知らんよ。長年『組織』に金を出してきたし、利用もしたからかもしれんがね。ひょっとして、私が急死して、この会社が潰れたら困るということかもしれん」
「それで、どうなさったのですか?」
「引退の準備を始めたよ。1年猶予があったからね、殺されることは伏せて、息子と役員に会社の全てを引継ぎ、弁護士などと相談して遺産の分配手続きも終わっている。株主には根回しをしてあるから、私が死んだ後の株主総会で息子は解任されるはずだ。まあ遺産は少しあるから、無理しなければ働かなくても暮らせるとは思うがね」
会長は話し終えると、再びコーヒーを一口飲み「ふう」と息を吐いた。
「さて、これで私の話は終わりだ。さっさと済ませてくれるかね。どうせ病死に見せかけて殺されるんだろ?」
「既に死後の準備はお済みということですね?」
「その通りだ。もういつ死んでも大丈夫だよ」
「では、私もお話しをさせていただきます。まず私は、殺し屋ではありません」
「なに?」
会長は不思議そうな顔をしている。
「どういうことかね?」
「エージェント、または工作員と言った方がよいかと思います。殺しもやりますが、任務途上で必要に迫られた場合に限られます。確かに今回の依頼は病死に見せかけての殺しの依頼でしたが、内密に、『組織』から提案があります」
「提案?」
「はい」
会長はこちらの意図を測りかねている表情だ。
最初のコメントを投稿しよう!