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「『組織』としては、長年『組織』に貢献してくださった会長を失うのは損失が大きいと考えているようです。そこで、会長に生きる意思がおありなら、病死という体裁を整えて、新しい戸籍を用意しますので、『組織』のために働いていただけないか、というのが提案です」
会長は立ち上がり、窓のところへ行き、外を見ている。
「私がイエスといったらどうなるのかね?」
「一旦仮死状態になっていただき、『組織』が用意した病院に入って頂きます。そこで諸々の手続きを済ませて、生まれ変わっていただくことになります。当然ですが、東京に近づくことはできなくなります。どこか南の島にでも移住していただき、悠々自適に生活をしながら時々『組織』の仕事を手伝っていただくことになるそうです」
「ううむ・・・そう来るか・・・」
私はふところから錠剤を2つ取り出し、テーブルに置いた。片方には「+」片方には「-」の文字が刻まれている。
「『+』と書いてある方の錠剤は、飲むと24時間仮死状態となります。飲んでいただけば、24時間以内に全ての手配をいたします」
「『-』と書いてある方は?」会長が質問してきた。
「眠るように意識がなくなり、解剖でも検出されず、どう見ても自然死に見えるという毒薬です」
・・・長い沈黙
「組織もとんでもないことを考えるもんだ・・・」会長が搾り出すように言った。
「一つ確認したいんだが、本物の蒲田君は無事かね?」
「無事です。昨日からお休みを取っていただいています。欠勤願いはこちらで処理させていただきましたが」
「ふん・・・」
「そうだ、蒲田さんからも伝言があります」
「?」
「『これからも会長の下で仕事を続けて生きたい』とのことです」
「そこまで根回し済みか・・・仕方あるまい」
会長は「+」と書いてある錠剤を口に含むと、コーヒーで一気に飲み干した。「自分が今から死ぬと思うと、不思議な気分だな」と軽口を叩いていたが、5分ほど経つと完全に意識を失った。
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