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億劫な体を起こして、隣の部屋へ向かう。 真っ暗な部屋の電気をつけた瞬間、携帯電話の音が消えた。 明るくなった部屋を見ると、住み慣れた我が家ではなくなった気がした。 家具も小物も何も変わってはいない。 けれど、得体の知れない不安感が次々と襲ってくる。 しばらくはそこから動けずにいた。 何が違うのかと冷静に考えた時、香りがないことに気が付いた。 先々週の外泊後、雅和はシャンプーやハンドソープ、洗剤などを持って帰ってきた。 無香料で肌に優しい洗剤は、今までのものを押しのけ、特定の場所を陣取った。 先週は湿布かわりに使えると言われている粉、薬剤を使わない天然の塗り薬などを持っていて帰ってきた。 安全で、いいものが悪いのではない。 けれど、それらから、雅和のそばにいる存在が嫌でも浮かんでくる。 女性の思いが、じわりじわりとこちらの領域に入り込んでくる。
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