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何度も彼女に負ける自分を想像し、その時に自分がどうするべきか、予想もしていた。
しかし、実際どうしようもならない状況になってみると、雅和にもこの家にもこだわることが馬鹿らしくなった。
もう、これで終わり……。
いざという時のために準備しておいた、自分の通帳や印鑑、重要書類をカバンに入れていく。
そして、大きなスーツケース二つ、ボストンバックに衣類、化粧品、薬、携帯の充電器などありとあらゆるものを詰め込んだ。
車にスーツケースを運び込んだ後、ビジネスホテルを手早く予約する。
最後に、浮気相手と一緒に写っている雅和の写真、記入した離婚届をリビングのテーブルに置いた。
ぐるりと満足げに家じゅうを見回し、外へ出る。
吐く息は白い。真っ暗な夜を車で照らし出し、突き進んでいく。
鎖は外れ、まるでどこまででも飛んでいける高揚感に包まれた。
(了)
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