『若恋』恋物語

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「……誰?」 頭がくらくらして立っていられない。 それでも行かなきゃいけないところがある。 叩いたの、謝らないと… 違うってちゃんと説明すれば良かっただけなのに。 「おっと、まだ無理だろ、動くのは」 熱が下がらないたまま。崩れるように座り込む寸前で月明かりの人に抱き支えられた。 「全く無茶をする、お姫様だ」 呆れられた声、でも優しい。 浴衣からお香の香りがした。 「…ほう、移り香、ね」 あいつらしいか。 微かに笑った気配がして、 『若、』 月明かりの影はそう呼ばれて、わたしを抱き上げると歩き出した。 「また会おう」 布団に寝かされた瞬間に気を失った。 『―――若』 そう呼ばれた名が耳にいつまでも響いていた―――
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