未確認で日常系

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ケータイのアラームという奴はどうしてこうも心臓に悪いのか。 なんかもうビービーする電子音的なあれがもうめちゃくちゃ心臓によろしくない。 ケータイの製造メーカーは俺の心臓に毛が生えていたことに感謝してほしい。 おかげで入学式に遅刻しそうである。というか遅刻している。 明らかに寝過ごした。アラームにはちゃんと仕事をしてほしいものだ。 いやむしろアラームはきっちり時間通りにけたたましく鳴るという仕事をこなしたのだろう。彼らはそのために存在していると言っても過言ではない。 そんな彼らの健気なお仕事を踏みにじる俺の心臓の無能っぷりにはただただ驚くばかりだ。騒音まみれの現代社会に慣れ切った俺の、毛でふっさふさな心臓にはぜひとも野生を思い出してほしい。アマゾンだったら死んでた。 それにしても目が覚めて時間を認識してから飛び起きて身支度を終えるまでの流れはすさまじかったな。特に着替えからの洗顔の手際の良さは我ながら神懸っていた。 あの速度はオリンピックを狙えるレベルだった。果たしてそんな種目があるのかどうかは知らないが。 とまあクッソ下らない事を考えている俺であるが、絶賛、遅刻中の身である。 今日から通う予定である私立那須原(ナスハラ)学園へはどんなに急いでも自転車で片道20分はかかるだろう。そして、この春からの俺の城である小汚いアパートを出た今現在、左腕にはまっている入学祝いとは名ばかりの安物の腕時計の針は入学式開始時刻を指し示している。 つまり、間に合うわけがない。 こうなってしまうと急ぐ気が起きなくなるのが俺という人間である。もはや諦めモードだ。どうにでもなれである。 アパートの錆びついた階段を下りて一人暮らし開始に合わせて購入した自転車にまたがりのんびり漕ぎ出す。新品のローファーがペダルを踏むにつれて足を絞めつけてくる。 ちなみにママチャリである。高校生にしては若干ダサい感があるが、これからの一人暮らしにおけるママチャリの利便性には代えられない。 とかく効率を重視しがちでそれ以外がおざなりだという指摘は家族からも友人からもすでに耳タコである。横道に逸れそうになる思考を無理矢理現実に引き戻す。 ホームシックはできればもう少し先が望ましい。
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