未確認で日常系

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通学路は急な坂道に差し掛かっていた。 目的地である私立那須原学園は山の上に鎮座ましましていて、つまり学園までの道のりには坂道がつきものなのである。 なんいうクソ仕様。 バカとなんとかは高いところが好きとは言うが受験勉強のせいでゴミクズと化している俺の体力と脚力にはちょっと笑えないレベルだ。いやこの学校名門校だけれども。 その辺は言葉の綾である。 えっちらおっちら自転車で坂道を登っていく。 舗装された道路の周辺はうっそうとした、森と表現しても差し支えない背の高い木に囲まれていて、昼間だというのに薄暗い。 おかげで気温は低めで四月にしては寒いくらいなのだが、こめかみには汗が伝っている。そしてメガネが曇る。勘弁してほしい。 心臓には毛が生えている気がする俺ではあるが残念ながら今の体力はゴミクズだ。 正直歩いたほうが早いし楽だ。というか歩こうもう。前言撤回。片道自転車で15分と徒歩未知数である。グーグルアースを信用しすぎるのも考え物だ。 メガネを外して伝った汗をぬぐいつつ自転車を下りるが道のりはまだまだ遠い。その証拠に坂道は延々と続いていて、終わりなんて見えそうになかった。 初日からの遅刻に加え、この苦行がこれから毎日続くと判明してしまったことにより俺の心は帰宅への決意を固め始めている。 これはまずい。こんなことなら寮に入っていればよかった。それもバカ高い入寮費が払えるのならばの話ではあるのだが。 そうこの学園、名門校であり坂の上のホニャララ的なクソ仕様に加えお坊ちゃま校である。つまり諸々の費用がバカ高い。なんかもう文字通り桁が違うのである。あと男子校である。なんでそんなところにごく一般的な家庭出身の俺が入学を決めたのかは、これまた深い事情があるような無いような気がしなくもないのであるが今はそんなことはどうでもいい。 坂道しんどい。自転車がむしろ邪魔になっている。帰宅への決意は着々と踏み固められていて揺らぐ気配がない。耐震性能はばっちりである。ちょっとやそっとじゃ覆せる気がしない。もう今日はいい気がしてきた。 盛大なため息をついてもと来た道を引き返そうと自転車にまたがる。 邪魔とか思ってごめんなママチャリよ。君には期待しているよ相棒よ。 ペダルに足をかけ、いざ行かん俺の城へと思った瞬間、俺は気がついた。 強い視線が、突き刺さっている。
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