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視線は、坂道を少し上った先から来ているらしい。
うっそうと生い茂る森のせいで気が付かなかったがどうやら門が近いようだ。
姿を見られた以上、引き返すのは得策ではない。
どこぞの犯罪者のような言い回しではあるが要は気まずいのだ。
しょうがないので自転車から降りてまたしても山登り開始である。
少し歩くと木立に埋もれるようにしてたいそうご立派な門が現れた。そしてその門に張り付くようにして小屋のような建物も目に入る。小屋というにはやはりずいぶんと立派な造りではあるのだが。
小屋には守衛らしき人影があり、視線の主もその人影らしい。
視線の主は俺が見ていることに気が付くと、こちらに目を合わせてにやりと笑った。
守衛の制服を着てはいるが、帽子から覗く染めているであろう傷んだ赤茶けた髪が、かっちりとした印象のそれを台無しにしていた。
堀りの深い顔立ちに乗せた意地の悪そうな笑みが恐ろしいほど様になっている。
しかし守衛というよりはチンピラかヤクザのそれである。
つまり、ガラが悪い。とても堅気には見えない。
「あの、すみません」
「んあ?なんだよ」
殴りたい、この笑顔。第一学園人の印象としては最悪の部類だ。いくら顔が整っているからといってもイラっと来るのは仕方がない。俺は悪くない。
そもそもなんでこの人守衛とかしてるんだろう。
「今日からこの学園に通う予定なんですが、門、開けていただけませんか」
「ああ~?そんな話聞いてないけどな?」
んなわけねえだろカス。
もうこの時点で俺の中の帰宅への決意は固すぎて上に高層マンションが建つレベルである。
文明すごい。そして学園への不信感も募っている。雇う人間は選んだ方がいいぞ私立那須原学園。バカ高い学費を要求するからにはぜひとももっと頑張っていただきたい。割とマジで。
「いやそんなわけ、」
「んなわけねえだろカス!!!」
「がッ!!!」
うわびっくりした。
「ごめんな。こいつ話聞かないうえにガラ悪くてな。怖かったろ?」
突然現れてチンピラ守衛もどきを殴り倒すあなたのほうが怖いです。
殴りたいとは思っても実行には移さないレベルで温厚な俺にはいささか刺激が強い。
というかメガネで死角になってるところから急に現れて容赦なくチンピラ守衛もどきを殴り倒すから本気でびっくりした。俺の心臓に毛が生えてなかったら叫んでた。
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