第1章

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私が口を開くよりも早く彼女は私のきょとんとした表情に対してやや渋めな表情をしながら、まるで私の心の中を覗き込むように睨む。 「別ににらんでいるわけじゃないわよ」 その言葉に私の身体はビクッと跳ね上がる。まさに思っていたことを言われてしまい驚愕の表情に首筋には嫌な汗が伝う。 「な、なんで思ったことを――」 「弁解するのかって? それは、私が死神だからよ」 なんて言ったのだろう。彼女はあり得ない言葉を今、私に吐き捨てたのだ。自分が死神だと当たり前のように言い放った。 この時、私の心が正常で一般的な人であったのならばこの女性はただの狂人で、おかしなことを言ってるんだなぁ。と聞き流すことができただろう。けれども今の私にはそんな余裕はない。どこか普通はと思いながらも、死神であるなら寿命は後四カ月と半日しかないのか。と納得してしまっている自分がいる。 けれども解せない。私の知っている死神であるならばいつ死のうが魂だけ回収すればいいのではないのだろうか。 ぼさぼさの髪の毛を?きながら「寿命が約四か月後なら今死んでも問題ないのではないですか?」とボソボソと自分でも聞き取りづらい声を出す。 彼女はハッと美麗な顔つきに反して人を馬鹿にしたような表情に顔を歪めて吐き捨てるように笑う。 最初に受けた美しいという言葉がみるみる内にしぼんでいくのが解った。いや、美しいのは美しいのだけれど彼女の表情は優雅に泳ぐアヒルの水面をみてしまったような、クリスマスイブの夜にプレゼントを枕元に置く父親を見てしまったような、そんな何とも言えない気持ちになってしまった。 私の感情など露とも知らず彼女は「寿命というのは決まってるの、タイミングなの、そのタイミングを逸脱するのはダメなのよ」と、詰め寄るように私に言ってきた。 だとしても目の前の彼女が死神だとして当の死神が止めるものなのだろうか。死ぬべきでない人の場合、普通は何らかのアクシデントがあって止めるようなものだろうに。 私がその言葉を率直に彼女へ伝えると彼女は嫌そうな表情を浮かべた。 「それはね、貴方の運が悪いせいよ」 「私の、運が悪いんですか……」 「普通はね誰かが、何かが止めに入るものなの。でも、貴方の場合はその止めるものが何もなかったのよ。私以外」 「それは、なんというかすみません」
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