みかんの中の戦い

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「のどかはあの声が聞こえたのかい、のどかは繊細で利発な娘なんだね」 「ここは昔、合戦場にされてね。たくさんの人が亡くなってるの」 「合戦場になる前に、ここに住んでた人はみんな追い出されてね、家畜は全部取られて邪魔になる家は燃やされたんだよ」 「それから、お侍さんたちは殺し合いをはじめたの。自分たちの他に生きてる者が居ないような場所でね」 「でも死を覚悟して死ねる人なんてお侍さんの中でもなかなか居ないもんでね、死にたくないって思いながら死んじゃった人がたくさん居たみたいなの」 「そんな人たちの魂がこの近くで一個だけ実っていたみかんに宿ってしまったの」 「それでね、毎晩、夜討をかけられた時刻になると死んだことも忘れて震え上がってみんなで雄たけびをあげるの、小さな小さなみかんの中にたくさんの魂がいっぱいに詰まって、腐ったり萎れることもなくもう500年以上も毎晩怖がり続けているの」 「この村の人はこのみかんのこと知ってるの。でも供養なんかしないの、1年ごとに家に置いてね、嫌々じゃないんよ。みんな喜んで置くの」 「ずっと何百年も昔の魂だけどね、よくも村を滅茶苦茶にしたなって今も苦しませて、みんなでおもしろがっているんだよ」
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