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「ここは女の子が来るところじゃないよ」
そいつは黒光りするボディを揺すって近づいてきた。
拠点警備用のローパー。
二本足のヒューマノイド型で動きが素早く危険な相手だ。
だけどこちらにはベルトランがいる。
ローパーは急に動きを止め、そのままフリーズした。
機能停止。
人間で言えば死んだということ。
「何で早くロードしてくれなかったんだ」僕はベルトランにぼやいた。
「ちょっと考え事をしていたんだ」
「コンピュータが何を考えるのさ」
「人を愛することについて」
「なにそれ」
「ルナには分からないよ」
「ふーん。ところでいつものやつを使ったの?」
「そう。ローパーはシールドプログラムが弱いから"カニバリズム"で充分だよ」
カニバリズムとはクラッシュアプリの一種。
OSを改変したり破壊するプログラムだ。
カニバリズムは対ウィルスプログラムの命令を書き換えて自分自身を攻撃するようにしてしまう。ローパーはベルトランがロードしたカニバリズムを取り込んでコアAIが破壊されたのだった。
昔はコンピューターウィルスと呼ばれていたらしい。
「さあ行こう」
エレベーターを制御する操作パネルにベルトランがコネクトする。
そして、昨日、時間をかけてロードしたプログラムを起動して、エレベーターを管理するセンターに偽の情報を流し、僕が正式な手続きを踏んだ旅行者だと錯覚させた。
5秒ほどでランプがグリーンに変わり扉が開いた。
「ちょっと遅いな」ベルトランがつぶやいた。
「腕が鈍ったんじゃないの」
「私に腕はない。あるのは羽だけだ。もっとも飛ぶことはできないけどね」
「あんまり面白くないよ、そのジョーク」
「ジョークじゃないんだけど」
エレベーターに乗り込む。
扉が閉まり上昇を開始する。
エレベーターは僕の部屋ほどの広さで、違うのは窓がないこと。
そして色々な方向を向いた椅子がたくさんある。
「何で椅子の向きを揃えないのかな」
「ランダムな構成の方が自然の法則に近いから」
「へえ」
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