開かずの踏み切り

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 私が小学四年生の頃、夏休みになると朝、五時に起き、自転車に乗って虫捕りにでかけたものだ。近所の年上の男の子たちと神社で待ち合わせた。私たちは帽子だけかぶって、手ぶらである。二十分ほどで、川の堤防沿いにあるクヌギ林に到着する。  朝の林は、まるで絵画のように静寂で、樹液の甘ったるい匂いが薄らと広がっている。  クヌギの木の下へ行くと、思いっきり木を蹴る。すると、木の上から数匹のノコギリクワガタがカサッと乾いた音をたてて落ちてくる。  さて、このクワガタムシを手ぶらの私たちはどうやって持ち帰るのか。  生徒に質問すると、ポケットや自転車のかごの中に入れる、服につけるとか、答えるのだが、どれも正解ではない。  土の上に落ちてきたクワガタムシを右手でつかまえると、左手で帽子を取り、クワガタを頭の上にのせる。そして、帽子を再びかぶり、そのまま持って帰るのである。 「そんなことできるわけがない」と生徒は口々に言うのだが、クワガタムシは頭の上で意外とおとなしくしているのである。多いときには五匹のクワガタを頭にのせ、帽子をかぶりながら、家に持ち帰った。  自宅に到着すると早速、帽子を脱ぎ、一匹ずつ、虫をプラスチック製のケースに入れていく。  ケースの中にはお大が鋸くず屑を敷き詰め、店で買った木が置いてある。木には深さ二センチ、直径一・五センチの穴が空いており、そこに市販の樹液などを入れる。当時は西瓜の皮なども入れて餌にしたものだ。最近では、西瓜はクワガタムシが下痢をするから良くないとされているが・・・・・・。  この話は生徒だけでなく、大人にもするのだが、     「私も同じようなことをしましたよ」という人はまずいない。本当はあのときの感動を分かち合いたいのだが・・・こんなことをしたのは、限られた地域だけだったのだろうか。  生徒への話はこのへんで終了するのだが、実は続きがあるのである。
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