開かずの踏み切り

5/27
前へ
/27ページ
次へ
 小学五年生のとき、衝撃的な出来事が起こった。  夏休みの昼下がり、縁側で横になりながらサイダーを飲んでいた。  我が家では「コカコーラを飲むと体の骨が溶けるから」という噂を祖母が信じていて、サイダーをケースで購入していたので、夏の飲み物といえばサイダーだった。コカコーラがだめで、サイダーはなぜ、大丈夫なのか理由は今でも分からない。  仰向けに寝転んで、サイダーの瓶を立てて、ラッパ飲みするのは妙に開放感があふれていた。飲み口から、小さな無数の泡が広がりながら上がっていくのを見るのが楽しみであった。  飲み終えてうつらうつら居眠りをしていると、庭の砂利を踏みしめる足音で目を覚ました。祖母が近づいてきて、ぼーっとしている私をのぞきこむようにして、 「大変なことや」と少し大げさに手を振りながら、思わせぶりに話かけてきたのである。 「実はな、すごいことがあるんや。家族が増えるんや。  お前に弟か妹ができるんやで!」  生涯、一人っ子であることを覚悟していた私には、青天の霹靂と言える出来事であった。  近所に同級生が二人はいたが、どちらも女の子であった。そのため、年上の男の子と遊ぶのだが、私は使いっ走りみたいなことをよくさせられるので、辟易していた。もし弟がいたらと考えたことは二、三度あったので、   「弟がいいなー」そんな弾むような気分であった。  母のつわりがひどくなると、小学生ではあったが、性に目覚め始めていた私には、母の様子がなまめかしいものに感じられるときもあった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加