開かずの踏み切り

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 野球で一定の成果が上げられると次は虫捕りをすることになった。私の古い虫捕り網とプラスチックの虫かごを小屋の奥から取り出し、近くの神社で蝉を捕ることになった。孝はまだまだ背が低く、木の高いところにとまっている蝉を捕れなかったので、代わりに私が捕ってやると大喜びしたものである。 「蝉を持って帰り、家で飼いたい」そう、孝が言い出した。  蝉を飼育することは非常に難しいということ、蝉は幼虫として約六年、地面の中で生活し、地上に出て成虫として生きるのはわずか一週間ほどであるから、その短い地上での生を大事にするために、逃がしてやるべきだと、噛み砕いて説明した。すると孝はあっさりと了承し、蝉を逃がしたのである。
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