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「本日の11時に面接のご予約を頂いていたのですが、なにか不都合でもごさいましたか」
「え……面接」
したっけ?
手帳を開き、一月の予定を確認する。今日の欄にはなにも書き込まれていない。
吉原はいい声に戸惑いの色を滲ませた。
「昨夜の9時に就職ナビサイトを通してご予約を頂いたはずなのですけども」
「す、すみません!」
俺は向こうに風の音が聞こえそうなほど、思いっきり頭を下げた。
PMS社っていうのには覚えがないが、就職サイトを見たのは覚えている。ただし夢の中だけど。
とはいえ、怒られることは必須。もちろん面接もなかったことになるはず。
正直、この時期になってはどんなに零細だろうとブラックだろうと面接してくれるだけで有難かった。
しかし俺の予想に反して、吉原は小さく笑い、優しく言った。
「謝る必要はございません。本日中でしたら対応できるのでいつでもいらしてください」
「……え」
「場所は分かりますか」
「は、はい」
なんて知らないけど。
それにしてもこの吉原って人、正気か? 俺が言うのもなんだけど、人が良すぎないか。
吉原は始終いい声音で、ではお待ちしておりますと、丁寧に締めくくり電話を切った。
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