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あの頃は良かった。
俺は三年で、東は一年だった。部内の空気を気に入っていた俺は、退部してからも受験勉強の息抜きに頻繁に顔を出していた。
東は一年の中で、一際大きかった。高一なんて、まだ完全に大人の身体になっていないやつがほとんどなのに、東の場合は既に完全体に形成されていた。
対して、俺は平均的にみても小ぶりな方。
だからデカイやつに横に並ばれるのは嫌いなんだけど、こいつは先輩を立て、俺の三歩後ろをついてくるから、劣等感を抱くこともなかった。
その東が、俺よりも先に内定を取ってしまった。部活でも私生活でも俺の先を行くことのなかった東がだ!
東は短大に行き、奇しくも同じ年に就活をすることになった。
俺だって、最初の二ヶ月は後輩の内定を喜んださ。だけど、すぐ決まると思っていた就活が、年を跨いでまで続いていたら、どんなに温厚な人間だってヒステリックになる。
「大体先輩、動物も楽じゃありませんよ。ご飯とか、自分で調達しなくちゃいけないんですよ」
すっかり板についたスーツ姿で東は身を乗り出す。ちなみに、すでに就活を終えた東が今日スーツを着ているのは、俺の合説に付き合ったからだ。
宥めるような東の口調に、俺はムッと彼を睨んだ。
「だれがサバイバルしたいって言った」
「だって動物になりたいって」
「俺は愛玩動物になりたいつったの!」
「……というと犬とかですか」
「犬はやだよ。番犬なんかしたくないもん」
「じゃあトイプーやダックスとかは?」
「それもお断り! 行きたくもない散歩や着たくもない服なんてごめんだもん」
「……じゃあなんならいいんですか」
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