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「なあ、京子。俺と付き合っててもつまらないだろ?」
吊り革に両手でだらしなくぶら下がったままの雄介君は素っ気ない顔で突然に言いだした。
東雲(しののめ)学園の高校三年生で、いまだに進路も決めてない不良だった。
「え?」
私は高校三年になってから、薄々感じていた。雄介君の態度がそっけないことを。常磐線の人が疎らの時間帯。吊り革を片手で必死に握っている私はメガネを掛けた小柄な女子だった。顔もあまり良くない。
きっと、雄介君はいつの間にか他の人に気持ちが向いていたのだろう。
私は何故、ということはまったく頭に浮かばなかった。
そう、運命や運勢や単に運が悪かったのだろう。
雄介君は気まぐれで、いつも心がブラりとしているのだ。
容姿は学園一とまで言われ、危ない不良グループの中でも大例外で、スポーツ万能。成績は中の上。数多のラブレターを無関心に破いては、失恋や玉砕をした女子たちは、実際に死を覚悟するほどの絶望のどん底へと落ちていった。
柏駅で座席に座っていた曇った顔の霧子と降りた。
雄介君とは昨日までは恋人同士だったのに、今では赤の他人になった。
ロータリーまで肩の力を落としていた私に霧子は自然な態度を取り繕っていた。
「京子。そんなにガッカリしなくても……あ?」
女友達の霧子は私を励まそうとしていたが、何も言わずに通り過ぎる雄介君の態度を見て口を閉じざるを得なかった。
「またね……」
私は雄介君に呟いた。
商店街の方へと俯いて歩いていると、隣から霧子は急に明るい話題を振りだした。
「あのね。中条君って、バスケ部のカッコイイ男の子がいるの。京子も会ってみたら……」
商店街を行き交う人々は、いつもと同じ服装でいつもと同じ会話をしている。
世界がいつも通りだ。
私だけが突然にいつも通りの生活に紛れ込んだかのようだ。
「あのね……。水泳部にもいるの。カッコイイ男の子が……」
「もう! やめて!」
私は叫んでいた。
頬を流れているものが何かなんて、まったく気にしない。
商店街を家の方へと走り出した。通行人に幾度もぶつかっては、何度も転びそうになった。制服のボタンが幾つか弾き飛んだ。
後ろで霧子が何か叫んでいた。
「危ない!」だとか、「待って!」だとか。
私は全速力で商店街を走り抜けると、街角の家の玄関を壊すつもりで開け放った。
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