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キッチンにいる台拭き片手の母は唖然としていたが、私のことをどこかで気遣っているのだろうか?
何も言わなかった。
階段をドスドスと音を立てて上り、二階の自室のドアを家が振動するほど思いっきり開け放つ。
ベットに鞄を投げ捨て、机の脇の犬のぬいぐるみを掴んでは壁にぶち当てる。
ボロボロになった制服のまま。机に突っ伏していると、スマホにメール着信音が届いた。
私は無視した。
数時間が経ったようだ。
私は時計を見つめたが、言葉では言い表せられない感情で、時計を窓の外へと投げ捨ててしまおうとした。けど、思い止まった。
少しは落ち着いてきたのだろうか。
高校二年になってからだ。
毎日。雄介君にラブレターを下駄箱や机の中へ入れては破り捨てられていた。真っ青になるほどだった。しかし、霧子が精一杯応援してくれた。
ある時、雄介君が隣町の不良グループと喧嘩をしている時に、「警察を呼ぶわよ」と叫んだ時があった。助けたのだ。それ以来、雄介君は私にすごく優しくなった。
付き合おうと雄介君が言いだした時は、地球が逆さまに周り出した。
でも、今はその時の記憶は。ただの苦しみでしかない。
巻き戻すこともできない。 取り戻せるくらいなら全力を尽くしたかった。が、涙が邪魔をした。
雄介君には他の学校にも言い寄る女子が大勢いる。
私はその中の一人で、いつでも誰かと交換できたのだ。
「京子―。ごはんだよー」
私は一階へ行かずに制服のままベットに潜り込もうとした。
「何か起きたとしても! ごはんを食べなさい! お腹一杯になれば、何もかもよくなるわよ!」
一階のキッチンから母が大声で呼ぶ声は、私を元気づけた。
そうだ。明日の学校へ行かなきゃ……。
霧子も心配していたし!
学校へ行かなきゃ!
キッチンへ制服のまま降りて行った。
母はいつもと同じ顔でごはんを差し出した。
食卓に並んだ献立は、にしんの半身に、大根の味噌汁。きゅうりの漬物。それと何故か赤飯?
「明日。学校へ行きなさいね」
母はそう言うと、テレビを点けてはバラエティー番組に大笑いしていた。
次の日
私は新しい制服を着て学校へ行くことにした。
昨夜はいつ頃に寝むれたのかまったく覚えていない。
机には、昨日書いた雄介君宛のラブレターが十枚以上あった。
鞄にラブレターを押し込み。犬のぬいぐるみを机の脇へ戻した。
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