弾けたボタン

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 キッチンにいる台拭き片手の母は唖然としていたが、私のことをどこかで気遣っているのだろうか?  何も言わなかった。  階段をドスドスと音を立てて上り、二階の自室のドアを家が振動するほど思いっきり開け放つ。  ベットに鞄を投げ捨て、机の脇の犬のぬいぐるみを掴んでは壁にぶち当てる。  ボロボロになった制服のまま。机に突っ伏していると、スマホにメール着信音が届いた。  私は無視した。  数時間が経ったようだ。  私は時計を見つめたが、言葉では言い表せられない感情で、時計を窓の外へと投げ捨ててしまおうとした。けど、思い止まった。  少しは落ち着いてきたのだろうか。  高校二年になってからだ。  毎日。雄介君にラブレターを下駄箱や机の中へ入れては破り捨てられていた。真っ青になるほどだった。しかし、霧子が精一杯応援してくれた。  ある時、雄介君が隣町の不良グループと喧嘩をしている時に、「警察を呼ぶわよ」と叫んだ時があった。助けたのだ。それ以来、雄介君は私にすごく優しくなった。  付き合おうと雄介君が言いだした時は、地球が逆さまに周り出した。  でも、今はその時の記憶は。ただの苦しみでしかない。  巻き戻すこともできない。 取り戻せるくらいなら全力を尽くしたかった。が、涙が邪魔をした。  雄介君には他の学校にも言い寄る女子が大勢いる。  私はその中の一人で、いつでも誰かと交換できたのだ。 「京子―。ごはんだよー」  私は一階へ行かずに制服のままベットに潜り込もうとした。 「何か起きたとしても! ごはんを食べなさい! お腹一杯になれば、何もかもよくなるわよ!」  一階のキッチンから母が大声で呼ぶ声は、私を元気づけた。  そうだ。明日の学校へ行かなきゃ……。  霧子も心配していたし!  学校へ行かなきゃ!  キッチンへ制服のまま降りて行った。  母はいつもと同じ顔でごはんを差し出した。  食卓に並んだ献立は、にしんの半身に、大根の味噌汁。きゅうりの漬物。それと何故か赤飯? 「明日。学校へ行きなさいね」  母はそう言うと、テレビを点けてはバラエティー番組に大笑いしていた。  次の日  私は新しい制服を着て学校へ行くことにした。  昨夜はいつ頃に寝むれたのかまったく覚えていない。  机には、昨日書いた雄介君宛のラブレターが十枚以上あった。  鞄にラブレターを押し込み。犬のぬいぐるみを机の脇へ戻した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加