樹の上のカイト

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樹の上のカイト。僕が死ぬ瞬間に思い出したのは、小さいころに買ってもらって、その買った日に樹に引っかけてしまったカイトのことだ。  木登りができるほど大きくなかったし、石を投げて落とせるほど低い位置にはなかった。泣きながら家に帰った僕を、親がどうやってなだめたのか、そこまでは覚えていなかった。新しいのを買ってもらったのだろうか?一緒にカイトを見に行って、「風で落ちてくるのを待とう」とでも言ったのだろうか?  死んでからしばらくして、本当はしばらく以上の時間が流れたのかもしれないが、僕は目を覚ました。目の前に広がるのはきれいな青い空。根拠はないけど、僕は生まれ変わったのだと判った。だが、人間ではなく、カイトのようだ。 「ああ、もしかして、最後に思い出したものに生まれ変わるシステムなのか」 「そうかもしれんし、一番心残りのあるものに生まれ変わるのかも」 独り言に応答があって驚いた。僕は声のするほうを向こうと考えたが、カイトなので自分では体を動かせなかった。その代わり、感覚だけをそちらへ向けようとがんばってみると、好きな方向の風景を認識できることに気付いた。 「話しかけてきたのは君かな?」 「そうだ、俺だ」 どうやら僕は樹の上に引っ掛かっていて、その樹が話しかけているらしかった。 「樹がしゃべるなんて、死ぬ前は信じなかっただろうな」 「でもタコもしゃべるくらいだしな」 「カイトと言って欲しい」 僕は感覚を研ぎ澄ませて、もう少し詳細な周りの状況を観察してみた。僕の片翼には枝が刺さったのか穴があいていて、お尻から出ている紐は緩く枝にかかりながら風に揺られていた。僕はいるのは樹のおなかのあたり、そしてその樹は丘のてっぺんに一人で立っていた。 「いいところに生まれ変わったなあ」 「嬉しいね、カイトもそう思うか」 「いい風が吹いている。ここで飛べたら気持ちがいいだろうな」 「まあ、その翼じゃ飛ぶのは無理だが、飛ばされる、っていう可能性はある」 僕は、そこでまたカイトを買ってもらった日のことを思い出した。強い風が吹いて、回転しながら望まぬ方向へ飛ばされるカイト。そして…… 「そういえば、君ももとは人間なの」 「ああ、そうだ。なんで樹になったか気になったか?」 「うん」 「話すと長くなるかも」 「聞かせてよ。時間はたくさんある気がする」
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