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……ふわふわしたオーガンジーみたい。それが凛々子の第一印象だった。
ただ、その柔らかさは多分、「見破られない」ことを主眼に置いたものなんだろう、とも感じる。
「レイヤ5まで『下り』ないと感知することすら出来ないとかね……」
多分げっそりするほど『力』のある人間の仕業なんだろう。
「やだなあ、これと対峙しなきゃなんないの……」
ごく小さな呟き。凛々子は細い溜息と一緒に丘を見上げる。
──ジグザグに続くアスファルト。曲がり角は3つ。その上に建つのは高校の校舎。道の途中に何件か家はあれど、だいたいの場所は落石防止のブロックだったり、林だったりする。歩いて15分程度の坂道だけれど、積極的に生活の場にしたいという人は少ないんだろう。多分前から住んでいた人が残ってるだけ。
その丘が、目的不明の謎の結界で覆い尽くされている。綺麗にすっぽりと。巨人が上から布を被せたかのように。
何かの侵入を拒みたいだけなら「入口」だけどうにかすればいいような気がする。この結界で出入りを防げるような連中の「通路」はある程度限定されている。そしてその一番「通路」になり易い「辻」……交差点は、この丘の中には1つもない。頂までの1本道。生徒や教師のための通学バスは高校の中に設置されたロータリーでUターンして戻って来る。
だとすれば。
「……うん、『閉じ込めてる』……んだろうなぁ」
何をだろう。
今の時代、閉じ込めなくてはならないような「よくないもの」はそうお目にかかれない。『レイヤ』を自由に切り替えられる凛々子ですらも。
凛々子は右のこめかみの辺りで、人差し指と親指を使い、ツマミを回すような仕草をする。彼女の場合はそれが「スイッチ」。『レイヤ』を渡るための。やがて彼女の目に見えていたオーガンジーはふわりと姿を隠し、そこにあるのは夕方から夜に傾きかけた紫色の空だけになる。
「さて、と」
一歩。さっきまで結界が見えていたその場所を超えるのは少しだけ緊張する。
踏み込んで。
ほんの数瞬だけ立ち止まる。
「……んー」
やっぱり、「よくないもの」は感じない。まだ彼らが、『レイヤ』を超えてこっちに干渉する気がないだけなのかも知れないけれど。
まあいいか。その気があるならそのうち干渉しに来るでしょう。
その言葉は口には出さないまま歩き出す。
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