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1つ目の曲がり角、切り立った崖を背に建つ2階建ての一軒家に凛々子は足を向ける。
申し訳程度の駐車場を超えて、ひどく古風な木の扉を押し開ける。
からんからんとカウベルが鳴る。ドアの前にはすぐレジがあり、小さなガラスケースの中には焼き菓子がいくつか。右手に広がる客席はテーブルが4つ。カウンター席は申し訳程度に3つ。今は客はいないようだ。
「やあ、来たね」カウンターの中で笑う白髪交じりのマスターは、凛々子を一目見て破顔する。「荷物はもう届いてるよ。直接2階に運び入れてあるから」
「ありがとうございます。お世話になります」
頭を下げて、カウンターの裏に伸びている階段を上がる。
登り切った所に住宅用の玄関がある。とは言っても、小さなコンクリートの三和土と申し訳程度の靴箱。
靴を脱いで上がり、年代ものの建具をからりと引き開ける。外側の古めかしさに比べると小綺麗なのは、ここに喫茶店を開く時に上階もリフォームしたからだと凛々子は聞いている。
どうしてこんな場所でわざわざ喫茶店なのか、と、親類からは不思議がられた。凛々子の叔父であるマスターはそう言って笑っていたけれど。
凛々子が「ここ」に来ることになって。
巡り合わせなんだろうねえ、と、彼はくすくす笑っていた。
凛々子が持つ能力のことを知る血縁は彼しかいない。産んだ親ですら知らない。幼い頃からぼんやりと叔父に対して感じていた親しみ易さは、今になってみれば因果だったのかも知れないなんて凛々子は考える。
この高校に通う必要が出て来た。その時に既に叔父がここにいた。周りの誰もが、叔父の家に下宿することをごく当たり前に受け入れられる。そういう素地が、──「整い過ぎている」。
──凛々子は、小さなアイランドキッチンのついたリビングを抜けて奥の部屋へ。真っすぐに続く廊下の片側には水回りスペースが固まっていて、もう片方に個室らしき部屋が並んでいる。その一番奥の6畳ほどの洋間が凛々子の部屋。
壁はベージュ。ぐるりと木目の腰壁がついている。床は板張りの上に薄紫色のカーペット。ベッドと木の机は既に配置済。その他にいくつかダンポールが積み上がっている。部屋に備え付けのクローゼットがあるので、タンスの類は持って来ていない。
ざっと荷物の数を確認する。不足しているものはなさそうと判断する。
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