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「え……え? 机?」
『それ』があることを確認しておかないとならない。一応は。
ナツミの姿は今はない。山沢を「動かす」ためにここを離れているんだろう。彼女を部活に送り届けたら多分戻って来る。とは言え、芳明がこの部屋にいる限り彼女は入れないだろうけれど。例の神気(のようなもの)のせいで。
真っ直ぐ机に向かい、中を漁る。
「え……えええ! ちょっ、あ、安斉さん!?」
「許可は得てるわ」
得てないけど。でも気づいて何か言われたとしたって手紙が出て来れば言い訳は立つ。
出て来た封筒を見てやっと凛々子は本当に安心する。とは言え、封筒の色が初回と違うのは……いや、まあ、大丈夫だろう。あのサッカー部員がこの色の違いを頓着するとは考えにくい。恐らく中身には同じ「クリームチーズスフレ」が書いてあるはずだ。そこさえ一致していれば、2通は同一人物によるものだという「誤解」で押し通せるだろう。
「あ──」
「『手紙』がね、出て来た時、彼は徹底的に自分の持ち物の中を洗い出したと言っていたわ。他に何か『痕跡』が残ってやしないかって」
まあそれも嘘なんだけれど。でも怯えていたのだからそれに似たようなことはやっていたとしてもおかしくはない。
「……うん」
納得している。…でしょうね。だからこそ。
「今私たちがこうしてガサ入れするより前に、これを入れることが出来たのは……」
こくりと頷く。名前を出さずとも共通認識があることを確認する。サッカー部の山沢。
凛々子は少しだけ目を閉じて、ふう、と息をついてから。
「今日、芦谷くんにこれを『見て』もらったのにはまだ理由があるのよ」
「…へっ」
机を片付ける。手紙も一緒に。なるべく元通りになるように格納はしたつもり。
「『見た』でしょう?」
「うん、そりゃ、見た、けど」
「『見えた』わよね?」
「?? ……そりゃあ……、あ」
腑に落ちたように目を見開く。それを確認して、凛々子は「スイッチ」を切り替えた。レイヤを「上がり」、見えない世界へと戻って来る。
「霊感全くない芦谷くんにも、はっきりしっかり、『見える』相手が差出人、よね」
「うん。……霊感のない人間の目撃談が必要だってことか」
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