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「島崎くんにとってもそうだけど、私にとっても必要なの」凛々子は軽く窓に寄りかかってうつむいて見せる。「……私が見ている世界が他の人と違うのはもう慣れた。けど、『どう違うのか』は、私にはわからないの。だって私は、『見えない世界』を見たことがないんだもの」
まあそれも嘘なんだけどね。
「……」
彼は優しい。微かに漂う同情の気配に凛々子は、自分が組んだシナリオがうまく進んでいることを確信する。
「……そう、いう……そういう、ことなら、俺はめちゃくちゃ役に立てる、かもね。ホントに俺はそーいうの生まれてから一度も縁がなくて」
「うん」
「カメラですら霊を映すことがあるのに、俺の目にだけは映らないんだなとか笑われたこともあるくらいで」
「……羨ましいな。目を交換してみたい。ねえ、芦谷くん」
「なに?」
「これからも……手伝ってもらえないかな」
「──え」
驚く、何度も瞬きする。でも、どうしてとは尋ねなかった。すぐに、生真面目な顔で、凛々子を真っ直ぐに見つめて来る。
「…何かを目撃すりゃいい、みたいなこと?」
「そうね。だいたいはそういうことになると思う。あと、女ではやりにくいことなんかも」
「そんなの…あるんだ」
「男子トイレの幽霊とかね」少し眉をひそめて見せる。
「そりゃ…大変だったね。でも俺は役に立てなくない? それ」
「カメラ持って入ってもらうことなら出来るかなって」
「え、カメラ経由でも『見える』んだ」
凛々子はこくりと頷く。
「へええ……」
「──返事はすぐじゃなくてもいいのだけど」
「あ、いや、違う、ごめん。俺で良ければいいよ。何が出来ることがあれば。……というか、」ちょっと笑いを含んで。「霊感がないってことが『役に立つ』ことがあるなんて考えたことなかった」
彼の笑顔に裏はない。だから「裏切られる」ような心配はしなくていい相手だろう。
おそらく。気配は似てはいてもやはりあの結界は彼自身のせいではない。自覚してやっていたとしたらレイヤを渡れば気づけるはずだし、無自覚だとしたら隠すことすら出来ないからやっぱり気づけるはずなのだ。
だとしたら。
一番考え得るのは、彼の家族。血と魂は断ち切れない。気配の色もまた。
そのうち、ご家族とお近づきになれるほどに「仲良く」なる日が来るといいのだけれど。とは言え、彼と「仲良く」出来ても、その家族と親しくなれるかどうかは、また別の話だが。
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