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※
「…そう言えばさ」
芳明は高校のすぐ前のロータリーでバスを待つらしい。列に並んだ。その後、思い出したように声を上げる。
「なんで山沢はクリームチーズスフレなんて選んじゃったんだろうな。島崎のこと『刺激』するだけなのに」
念のため少しだけ戻ってから、凛々子は答える。
「……刺激、したかったからじゃないかしら」
「え。わざと??」
「だと思う」
「知ってたのかな……事故のケーキのこと」
「知らなくても、想定は出来たんじゃないかしら」
「どうして?」首をかしげる。
「テレビに映ったんでしょう? …箱で『木村さん』と判ったのよね。で白っぽくて、果物やなんかが見当たらない。……パン屋さん兼ケーキ屋さんで、ケーキの種類はさほど多くない。だったら、チョコレートじゃなくて、果物がなくて、その条件に当てはまるのはチーズケーキ系しかそもそもなかった。──そういうことなんじゃないかと思ったのだけれど」
多分、山沢が知った経路もそうだったんだろうと思う。
「……あ……言われてみたら……そうかも……」
「…これは邪推に近いことだけれど」
あの「楔」で見えた元の文面から判断すると。
「彼女は中学の頃から島崎くんのことを想っていたのかも知れないわね」
「……」
「だから……妹さんの事故によって彼の人生が『狂わされている』ように見えたのかも知れない」
「その……意趣返し?」
「本当に、邪推なんだけれどね」肩を微かに竦める。
「いや、でも、……うん、ありえなくは、ないかもね」
「……死者がライバルになってしまうと難しいわね。明白に『勝つ』ことは絶対に出来ないから」
「そうだねえ」
バスが坂道を登って来るのが見えた。ロータリーに侵入してぐるりと回る。生徒たちが、芳明も含め、一斉に定期のICカードの所在を探してそわそわし始める。
「じゃあね、芦谷くん。…また頼みたいことがあったらLBMで連絡するわ」
「うん、了解」
軽く手を振って別れる。バスが生徒たちを乗せて出発するまで、凛々子は喫茶店に帰るフリで歩き続ける。
満員の、重そうなバスの後ろ姿を見送って。
「……さて、と」
独り呟いて凛々子は踵を返し、校舎へと舞い戻る。
──校庭では部活動が続いている。サッカー部ももちろん。その様子を確認しておいてから、レイヤを切り替え、豊の教室に足を踏み入れる。
「おつかれさま」
小声で声をかけると、俯いていたナツミが顔を上げる。
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