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興奮気味に彼女の心の声が届く。凛々子は表に出ないようにしながらも心の内から笑いが込み上げて来るのを感じていた。
──めっちゃ軽いんだけど!
──ね、自由でしょう?
──信じらんない……何にでもなれるんだ……
──なれる。だから、今度はお兄ちゃんを怖がらせないようにうまく振舞ってね。いい思い出になれる、その日まで、ちゃんと待つのよ。
──うん。……ありがとう!
妖精が手を振っていた。振り返せないので、一瞬だけ、目でにこりと微笑みかけておく。
静かに止まるバス。凛々子は人をかき分けて降車する。ブザーと共に扉が閉まる。
「……ふー」
大きく深呼吸する。
「さて」
再び、学校に向けて歩き出す。バス停1つ分、大した距離ではない。夕日はだいぶ落ちて来ているけれど、部活や塾で忙しい高校生なら歩いていてもまだおかしくはない時間だ。
丘のふもとにまで戻って来て、改めて見上げる。レイヤはまだ「下りた」ままだ。
「……うーん……?」
やっぱり浅いと見えない。「スイッチ」で深度を上げる。
一面にのっぺりと布のように覆っていた結界は、まだちゃんとそこにあった。
が。
「……」
眉をひそめる。結界の中に何か異質な光のような、脈のような、奇妙に動く線が時折走っているように見える。こんなものは、今まではなかった。
何かを閉じ込めるための力が弱っているのかも知れない。少なくとも凛々子にはそれが結界の「動揺」に見える。
レイヤの向こうの住人が「減る」ことは、この結界にとってはどうやらまずいことであるらしい。これがナツミを逃がした影響だとしたら、そうなる。
「……まだ事例が足りないけど……」
もしそうなら。
凛々子がやるべきことは、この調子で片っ端から、閉じ込められているモノたちを解放することなんだろうか。
「探すまでが面倒なんだけどなあ……」
小さく呟いて頭を振る。──とは言え。
ノーヒントだった今までよりは少し前進と捉えるべきなのだろう。何かをして、変化を観察する。今凛々子に出来ることはそれしかない。
レイヤを「上がって」、こっちに帰って来る。歩き出す。明日からは、少しばかり校内を散歩してみた方がいいんだろうか……そんなことを考えながら。
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