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「……動かしていないのに、ということ……だよね」
「はい。風も、ありません。揺らしてもいません」
しばし想像する。人形が動く、これは……豊の時のように、人の仕業という可能性はないだろうか。
「家族が動かしている可能性は? 掃除のために位置を変えたとか」
「いえ、そういうことではなくて」
首を激しく横に。何かを思い出したのか少し怯えた顔になる。
「動くというか……落ちるんです」
「落ちる?」
「はい。タンスの上に置いてあるんですけど、部屋で机に向かってる時に、背後で音がして、何だろうって振り向いたら落ちてるんです。誰もいないのに」
「……」
誰もいない──人の手に寄らないということを目撃している。これはちょっと豊の時とは違うかも知れない。
「あと、朝、支度を終えて部屋を出ようとしたらその目の前で落ちたこともあります」
「……」
「もちろん、私が部屋にいない間にいつの間にか落ちていたことも……あります」
「あの、えーと」軽く手を挙げて質問を挟む。「1度や2度では、ない?」
「はい。正直数えてはいませんでした。1度2度の時はおかしいなと思ったんですが、自分が何かを見逃していて落ちるようなことをしてしまったのかなとか……それこそ家族のせいかなとか……気にしていなかったんですけど……」
「何度も続くので不安になった、という感じ?」
少女は何度も頷く。
「なるほど」
とりあえずは凛々子がその熊を一度見てみれば原因は判るかも知れない。もし霊的なものなら。
「安斉さんに話してみるといいよ。紹介する」
「お願い…出来ますか?」
「うん。『下』の喫茶店で相談受けてるの、知ってるかな」
「はい」
「じゃあ放課後都合がつく日に来るといいよ。俺からは明日朝にでも軽く伝えておく。最初は相談料とか要らないから、コーヒー代だけ持って来てくれれば大丈夫」
「判りました。…ありがとう、ございます」
そろそろバスの時間でもある。少女がお辞儀から頭を上げたのに合わせて芳明は立ち上がる。そして彼女も。
「あ、名前だけ聞いといていいかな」
歩き出しながら問いかける。
「はい。関口里美です。よろしくお願い致します」
不安を吐き出したからなのか、彼女の表情は少しだけ先ほどよりも晴れているように見えた。
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