case1 - 手紙 / material side

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 中学の時はそれほど仲がいい訳ではなかった。正直に言えば今だって、顔と名前は一致しているけれど、「同じ中学だった人」程度の認識しかない。芦谷芳明にとって、サッカー部の島崎豊という生徒は、その程度の認識だった。  ただ、豊の側にとってはそうではなかった。確かにあの中学からこの高校に来た生徒はそう多くはないのだ。後から考えれば「だから自分だったのか」と理解はすれど、一番最初に下駄箱で二の腕をがっちり掴まれた放課後の瞬間は、そんなことまで頭が回っていなかった。 「……な、……なに!?」  素っ頓狂な声で振り向いた芳明の目の前で、すらりと背の高いイケメンが真っ青になって立ち尽くしている。腕をすぐに放すと、豊は何やら悲壮な決意を湛えて芳明に詰め寄った。 「お前のクラスに……安斉凛々子っているよな」 「う、うん、いるね」  真剣な顔は崩さず。ふう、と息をついた彼の次の一言は。 「しょ、紹介して、くれないかっ」 「……は?」  首を傾げそうになってから、頭が一瞬のうちでぐるぐると回転する。  そりゃあ。  高校生男子が違うクラスの高校生女子を紹介してくれと言うからには。 「え、……えーと、島崎、あーいうのがタイプ……なの?」  芳明は精一杯の微笑で──いやぁスミに置けないねえイケメンくん応援するよーみたいな顔(のつもり)で──確認したのだが。 「……えっ」  まるで意味判らないこと言われた、と書いてあるかのごとく拍子抜けした顔になる。 「……違うの?」 「………………っあー!」  今気づいた、とでも言いたげに髪をかき回して。 「そういうんじゃなくて……ってゆーか……あああそうかそういうの好きなのはむしろ女子の方なのか……っうー」  何やらがっくりとうなだれている。  身長は豊の方が高い。とは言え、これはこれで周りから見ると、何やら芳明の方がいじめているみたいに見えなくもない。 「ちょっ、……えーと、学食、とりあえず、行くか。立ち話も何だし」  食事を買うことはもう出来ないが、自動販売機でジュース買って座って話をするぐらいのことは出来る。放課後も解放されているのだ。  二言三言で(そう、紹介してくれ、ああOK、ぐらいで)済む話なら良かったのだが、コトはそう簡単ではなさそうだと豊の方も理解したらしい。そのままてくてくと、1階にある学食へと歩き出した。
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