雪の朝

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雪の朝

 朝起きたら、世界が白銀に染まっていた。  天気予報が、数日前から告げていた降雪の知らせ。それが本当になったらしい。  雪なんて滅多に降らない土地だから、雪だるまが作れるかとか、雪合戦ができるかとかとか、ひたすらワクワクしたけれど、それ以前に大問題があった。  滑って登校がままならない。  遠方の私立校に電車などで通っているならば、交通機関を理由に遅刻することも許されるだろうけれど、徒歩で地元の中学に通う身では、さっさと家を出ればいいだけと叱られるのは目に見えているので、滑りながらも懸命に学校へ向かわなければならない。  周りを見れば、皆同じ状態で、覚束ない足取りで必死に学校へ向かっている。  その中の一人がバランスを崩し、転びそうになった。  たまたま近くにいた俺が反射で手を伸ばすと、どうにか相手は転ぶことなくその場に留まった。 「ありがとう」  お礼と共に相手がこちらを見る。その顔を見た瞬間、この寒さの中だというのに、俺の体温は尋常ではなく跳ね上がった。  いつも、クラスの片隅からずっと姿を見ている片想いの相手。  今、弾みとはいえ、彼女は俺の腕の中にいる。俺を支えに体勢を立て直し、にっこりと俺に笑ってくれる。しかも。 「あれ? 松原くんじゃん。支えてくれてありがとう。こんな雪道で転んだら、制服ぐちゃぐちゃになっちゃうから、ホント、助かったー」  俺の名前を呼んでくれたあげく、にこにこと、そこから先は二人揃っての登校だ。  雪だるまも雪合戦もいらない。ただ、学校までの距離が永遠であれ。  そんなことをのぼせる頭で考えた雪の朝。 雪の朝・・・完
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