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空いているベンチに腰掛けて、夜の海を眺めながらコーヒーを飲む。
「先輩、やっぱり普段と印象が違いますね」
彼が柔らかく微笑む。
「そうかな?」
レンズの奥にある吸い込まれそうな瞳に見つめられて、鼓動が高鳴った。
「素敵です、沙苗先輩」
眼鏡の奥の瞳が、私だけを映している。耳元で囁かれたその甘い言葉に心が震えた。本気か冗談か、優しい眼差しからは見抜けなくて翻弄される。
「からかっているの?」
私が訊くと、彼の唇がこの字を描き、小さく笑った。
「からかってないですよ」
そう言って彼は、再び私に優しく微笑んだ。
その言葉とその表情に私の身体の熱が一気に上がっていく。
港町の深まる秋の気配を感じながら眼鏡男子の笑顔に、私の胸の音はいっそう甘く響いていた。
Fin
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