底知れない犬

2/40
前へ
/40ページ
次へ
  「おはようございます!」  入学式の準備でバタつく中、そいつは爽やかに隣の席にやってきた。  おはよう、とあちこちから先生方の返事が聞こえて、あたしも返事をしないわけにはいかなかった。 「おはようございます」 「おはようございます、虎城先生!」  ニコッと歯を見せて笑う好青年に、昨日のダーティな面影はない。  女の二面性や多面性なんて珍しくもなんともないけれど、男のそれには底知れないなにかを感じてしまう。  それはあたしが単なる世間知らずだからか、なんなのか。 「虎城先生、低血圧ですか」 「はい?」 「少し、顔色が悪いですよ」  心配するその表情も声も、すべてが嘘くさい。  あたしのことを非難するなら、自分のことも省みて欲しいものだ。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

297人が本棚に入れています
本棚に追加