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言いたいけれど、ここではなにも言えないし、それどころか彼の瞳に視線がいってしまう。
それが自分でどうにも許せなくて、胃の裏がチリチリ熱い。
──許せないのは、瞳以上に目につく宮沢賢治郎の唇の感触をもう知ってしまっているから。
宮沢賢治郎のことは、好きじゃない。
でも、彼の唇は悪くなかった。
そんな感じで男の人を見たことなんてない。
私はむしろ、そういう女性に軽蔑のまなざしを向けるほうだったはずだ。
「……大丈夫です。朝はいつもこうなので」
無難な返事をすると、宮沢賢治郎は「そうですか」となにごともなかったかのようにカバンと机の上の整理を始めた。
てきぱきとしたその動作は快活そのもの。
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