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「そやな、ほないこか」
「荷物、家、置いてくるわ。途中でどっか店寄ってくれ。なんか買うてくから」
おじは玄関に向かった。
「判った」
私は庭を眺めながら、ゆっくり歩いていたが、振り返り、ケヤキを見上げた。
この木は何十年もウチの家族を見続けて来た。
私の成長。
認知症の母。
その苦痛に耐えながら介護する父。
そして、母の遺体を穴を掘って埋める父とおじも。
彼はここに、自分の足元に母が眠っていることを知っていた。
しかし何も言わないし、何も訴えない。
これからも黙って、この家を見守って行くのだ。
(オレ、帰って来るわ。また一緒に暮らすからな)
心の中で呟くと、風もないのに木は揺れ、葉が、4、5枚、ヒラヒラと落ちて来た。
「それがエエ。ワシもそれに賛成や」
多分、そう言っているこの頼りになる大木を、私は、も1度見上げた。
完
2017年4月1日
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