けやきは知っている

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‐8‐ そして私はケヤキの下にいる。 今さっき聞いたばかりの父の話を頭の中で繰り返す。 ケーサツ? 行く気など毛頭なかった。 今さら暴露してどうなる。 昨日掘り起こした場所にまた少し土を盛ると、私は手を合わせ拝んだ。 今さらながらだが、私は神奈川での生活を引き払い、ここで暮らそうと思った。 私の家族はなんと言うか解らない。 もし否定されれば、妻と別れ、私1人で帰ってくる覚悟はあった。 ここで、故郷でまた三人で暮らす。 それで良い。 その時である。 「育男ー」 後ろから大声で呼ばれ、ビクッとし、振り向いた。 そこに立っていたのはなんと、法貞おじさんであった。 「え?法貞おじさんか?」 35年ぶりである。 当然ながら大分老けていた。 おじはニコニコしながら 「おまえー、えらい老けたなぁ。 エエオッサンやがな」 と言ってきたので 「お互い様やんか。人のこと言われへんで」 と、私も笑いながら言い返した。 昔似ていた父とはちょっと違う路線に向かって行った顔立ちで、ハゲてもいないフサフサの髪は、いい感じの白髪で、少し生やしているヒゲも白色だった。 「おじさんも、オトン入院したって聞いて来たん?」 おじさんのもとにも父から連絡が入ったのかと思ったのだが 「え?アニキが入院て?知らへんよ。 どないしたん」 と、不安な顔付きになった。 私は、土間で倒れていた父を隣家の高子さんが発見し、病院に運んでくれて、その連絡があって帰って来たことから、心臓のカテーテル手術をし、あす明後日には退院して帰れることを告げた。 「そやったんや」
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