本当のワル

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玄関を開けると、心地よい朝の風がオレの顔をやさしく撫でた。 7月に入り、今年は梅雨も早めに明けるでしょうと言う予測だった。 オレは通路から左側の階段に向かった。 エレベーターは無いため、4階から階段で降りなくてはならない。 これが、足腰の衰え始めた40代後半には、けっこうツラい。 (エレベーター欲しい) などとボヤいてもしょうがなく、オレはいつも通り階段を下まで降り、建物の外に出ると、駐車場に向かい、自家用車の前で立ち止まった。 (あ、やべ!玄関の鍵忘れた) 帰宅した時、妻も娘も留守の時も、まれにあるので、家の鍵はいつも持って出ることにしている。 (アホだなぁ、オレは。ちくしょう) オレは急いで、今降りて来たばかりの階段を一気にかけ上がった。 4階へ上がり、405のドアを開けた。 鍵はいつも左側の靴箱の上に置いている。 が、鍵はそこにはなかった、と言うか、玄関の雰囲気がなんか違う。 靴箱、これは備え付けで、前棟同じ形だと思うのだが、そこに入っているのは見なれない物だった。 ツッカケ、ハイヒール、ブーツ、運動靴。 全部女性物である。 これは妻の物ではないし、娘やオレの靴も見当たらない。 その上、靴箱の上の花びんも出る時、なかった。 見渡すと壁には見覚えのない絵。 (ここは?…)
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