けやきは知っている

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私の城からは庭は見えない。 回りに民家もなく、多少の物音も気にしないですむ訳だし、実はここにはウチで飼っていたタメと言うネコの死体も埋まっている。 タメは私が小学5年の時に死んで、このケヤキのすぐ下に埋めた。 たしか木の裏側だったと思う。 それがあった為に、利助さんもここに埋められているのでは……と感ぐった訳である。 この回りに、イヤ、もしかしたら、今立っている私の下に、もう白骨化した利助さんが居るのではと考えると、少し鳥肌がたった。 しかし埋めたとしたら、表側ではなく、やはり木の後ろ、山壁との間ではないか。 それのほうが判りずらい。 腕時計を見ると午後4時であった。 (暗くなる前にやらねば) おやじが入院していて、家に居ない間に私がやりたかったこと、それがこれである。 私は家の土間に入り、壁に立て掛けてあるスコップをとり、軍手をすると、また庭に出て、元のたち位置に戻った。 先っぽに乾いた土のついているスコップは、普段父が畑を耕すのに使用しているのだろう。 木の裏に回り込み草をかき分ける。 一回適当にスコップを土に突き刺したが、そこで私は躊躇してしまった。 (やはり止めとこか) 掘って何も出てこなかったら? ここにはないかもしれないが、この庭の 何処かにはいるかもしれない。 しかし、全部掘り起こし確かめるのは不可能である。 ではもし利助さんが居たら?
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