けやきは知っている

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‐7‐ 次の日。 父親の車(もうほとんど乗っていないらしい)で、病院へ向かった。 「おー、育男~。病院はむっちゃ退屈やねん。もう退院してもエエと思うでー。 オレ、連れて帰ってくれや」 父は私をみると、ハイテンションで言った。 その後も、ここ最近の心境や、病院内での出来事、看護師さんの対応などを私に早口で語った。 この人はこんなにお喋りだったかと思ったが、やはり寂しいのだろう。 父のお喋りが一段落した間に 「そういやさ、おとん。あれ覚えてるかー?」 と切り出した。 「おう、なんや」 「オレが中3の時に、利助て人がおらへんようになった事件」 「おーおーあったな~。で?それがどないしてん」 父は他人事のように、さらっと逆に私に問いた。 「いや、オレ、その後なーんも聞いてへんのやけど、アレ、どないなったんやろなぁ思て。なんか進展あったん?」 私は父の表情を伺った。 さて、彼はこれにどう対応するのか。 しらばっくれるか、はたまた真相を語り始めるのか。 しかし父は、さらにあっけらかんとした顔で 「アレ?お前知らんかったん?あの事件、もうとっくに解決しとるでー。利助さんは結局殺されて遺体で見つかった」 と、言いながら起き上がった。 「えーっ!」 病室で私は叫んでしまい、辺りを見回した。
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