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私はさらにカッカと体が火照って行った。
良かったでは済まされない憶測が頭に
浮かんで来た。
登場人物でもう1人、消えている身近な人間がいるではないか。
それは認知症を患い、13年前に家を出てったっきり、行方不明になった母である。
父はそれまでとはうって変わって真顔になり、私を見つめていたが
「そっか。アレ、見てもうたんやな」
と、今度は窓の外を眺めた。
私は返事をしなかった。
「実はなぁ、長い間、お前に隠してたことがあってん」
弱い声だった。
「な、なんや」
私も小さな声で返した。
「牧子の……おかあさんのことなんやけど……」
私を見ることなく、窓の外を眺めながら
「実はなぁ…」
父は言葉をためるだけためた。
私は催促せず待った。
「実はなぁ、オレ……殺してもうてん」
ボソッと小声で呟いた為、私はそれがよく聞き取れなかった。
「え?なんて?」
「お前のかあさんな……オレ殺してん……」
予期していたとはいえ、父の口からそれが出た瞬間、私はショックで一時停止状態になってしまった。
「そ、そんな冗談ゆうて、どないすんねん」
歪み笑いしか出来なかった。
その私に父は辛い事実を話してくれた。
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