けやきは知っている

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「アイツが認知症を患ってから、ずっと1人で介護してきた。 一時も目を離すことはでけへん…… 勝手にどっか行ってまうし、なんでも口に入れてまうしな。 訳の解らんことで怒りよる。 会話も成立せん。 オレのことももう判っとらんかったようや。 頭叩かれたり、蹴られたりもしたよ。 腹立って、怒る時もあったけどな、本人判ってへん。 シモの世話もやらんとアカンし。 これはしゃーないわな… せやけど、やっぱり介護は大変や…… オレかて70近かったし、ホンマ… 辛いで…… ただ本人のほうがもっと辛いんやろなぁ思て、耐えてやってくしかなかった。 しかしある夜、オレは無意識に、横で寝ているアイツの首に手をかけとった。 これで終わったんや。 グッタリなった牧子を見下ろし、コイツもオレも辛い現実から開放されたと思った。 せやけど、そう思たんも一瞬だけやった。 次にオレは嫁を殺してもうたんやと言う、罪悪感でいっぱいになった。 そや、オレも死んだらエエねんって思ったんやけど、死ねへんかった。 そなら自首して……… それもでけへんかった。 申し訳ない話やが、だんだんこの罪は隠さなアカンって思うようになって行った。 そこでふと思いついたのがケヤキの木の下や。 ほら、昔飼っていたネコの……名前忘れたけど……あのネコの死体、庭に埋めたやろ。 そこに牧子も埋めたろ思て。 そやから今でもアイツは、あそこにいてんねん 」
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