エクストリームNO・GU・SO

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「私は好敵手の登場に胸を弾ませています。今まで、多くのエクストリーマーが様々なシチュエーションでチャレンジを繰り返してきました。その度に私も新たな場所で、シチュエーションで、私自身の想像を超えるチャレンジを実現してきました」  スクリーンには赤茶けた光景が映し出された。  会場は再び緊張を帯びた静寂に包まれた。 「火星」  博士の声だけが響き渡る。 「人類が未だ到達していない極限。いえ、そこにたどり着いたしても、その環境が人類にとって極限状態であることに変わりはありません。私は人類初の火星探査隊のひとりとして選ばれました。極限の中での生理現象は生死に関わるものになりかねません。私はここまで様々な局面を乗り切ってきました。今度も必ず乗り越えるつもりです」  博士の視線は妻に向けられていた。 「この旅を許してくれた妻、民さんにはどれだけ感謝しても感謝し尽くすことは出来ません。もう何度も言いましたが、ここでも言わせてください。民さん、アリガト」  博士は深々と頭を下げた。 「私はこの探査が片道の旅だとは考えていません。二十五年後に予定されている帰還第一便で必ず帰ってきます」  場内からはかすかに鼻をすする音が聞こえてきた。 「そして、火星への極限の旅に出る前に、この地球上にまだまだ未踏の極限があることを教えてくれたこの映像の送り主にも感謝。私はあなたを尊敬します。わかっていますよ、あなたはこの会場に必ずいるはずです」  客席を見据えた博士の目が、次の瞬間ふっと優しい目に戻った。 「ところで皆さん、民さんは私に『枯れ木も山の賑わい』ということわざも教えてくれました。枯れている木でも何もない禿山よりはましで少しは賑やかに見えるだろうという意味のことわざです」  ここで一呼吸おいた。
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