エクストリームNO・GU・SO

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「失礼、なにも私は神秘体験について語ろうと日本にやってきたわけではありません。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私の妻、民子は奥秩父の出身です。私はアメリカ空軍兵士として横田ベースに勤めていました。民さんは、ウープス、失礼、私は妻を民さんと呼んでいます。民さんとは、民さんとの出会いは忘れることは出来ません、あの素晴らしい素晴らしい高尾山で私たちは出会いました。晴れたゴールデン・ウィーク。登山道から少し外れた草むらにしゃがみこんだ民さんは野に咲く花のようで、私はひと目で雷に打たれてしまった」  胸を抑える大げさな仕草に場内が湧く。芝居がかった物言いながら嫌味は無い。誰も彼もが話に引き込まれている。 「恥ずかしがりながら逃げる民さんを私は追いました。ここで逃せば永遠に逃してしまう。あとで聞いたところ、民さんは本当に怖がっていたようです。2メートル近い大男に追いかけられたらそれは怖いでしょう。追いついて話しかけても民さんは震えていました。これも後から聞いた話ですが、お腹が痛かった民さんはただでさえ心細かったところでこんな赤ら顔の大男に追いかけられて、しかも追いついてきた大男は一面識も無いのにいきなりアイラビューとか言い出して、本当に本当に、妄想に支配された頭のおかしいヒトなんじゃないかとただただ怯えていたそうなんです。けれど、私が最初に民さんを見つけたあの場所で、民さんの可愛らしい痕跡の小さな山の隣で拾ったキュートな猫のキャラクターのティッシュケースを手渡すと、何度も頭を下げてお礼を言ってくれました。そして、あまり上手ではないと言いながら英語で話しかけてくれたんです。あの時の優しい言葉を私は今でも忘れられません。サンキュー、民さん、ボクと出会うために生まれてきてくれてありがとう。そしてあの時あの場所で民さんがしゃがんでいなければ私たちは出会わなかった。素晴らしき出会いに感謝」  関係者席に座る奥さんにキッスを投げる博士に場内から割れんばかりの拍手が贈られた。
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