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「反響は凄まじいものがありました。監督は予想していたそうですが、一介の研究者に過ぎなかった私には想像もできなかった。生理的な障害や非衛生的な環境での排泄の問題で悩み苦しんでいる米国人がそれだけ多かったということでしょう。多くの方が涙とともにこの映画を鑑賞しました。他人事ではなかったのです。この映画では監督とともに日本にも取材しました。社会の中での望まれない制約の例として取り上げたトイレで大が出来ない日本の小中学生の問題は、私の中では民さんから教わった「GAMAN」という言葉と結びついています。我慢しなくていいよと日本では何度も繰り返し社会的な告知が為されている。過去には偉大な野球選手のホームランの数をコンビ名にした有名なコメディアンのTVショウで『我慢することが多過ぎる世の中に遠慮なくぶちかませ』といった過激な宣言までされていたそうです。我慢の限界ということでしょうか」
「この映画をきっかけに、私の研究者生活は一変しました。世界各地の最先端の研究者たちとの共同作業が増えたことで私の知見は広がりました。特に食べるものや腸内細菌によって排泄物の質をコントロールしようという取組には大きな刺激を受け、私自身も同じ方面の研究を始めるきっかけとなりました。タイミングをコントロールするための緩下剤や止瀉剤の研究もしかり。過酷な環境での施設の研究にも目を見張る物があります。各国の衛生当局からも意見を求められるようになりました。やがてNASAから声がかかります。宇宙飛行士の衛生問題の改善についてです。ここへ来て、私の原体験、宇宙飛行士のおむつと私の研究とが結びついたのです」
再び会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「ワイオミングで、奥秩父で、静まり返った夜に、晴れ渡った昼に、ゆったりとした気分で、慌てながら、自分を解放したあの瞬間のことを思い出します。空軍パイロットとして、研究者として、世界中の様々な衛生環境で出会った人々、くつろぎ、不快、便利、不便、それらを思い返します」
博士は目を閉じた。ワイオミングの木々を思っているのだろうか。
会場は静まり返っている。
「もっと自由を。私はそれを誰かに与えることを望んでいたのではありません。私自身の渇望でした。研究を続ける中で私は再発見したのです。私が求めていたものを。もっと自由で快適な瞬間を」
感極まったかのように目頭を抑える。
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