その先に、きっとあるもの。

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 小さな駅に、ニ両編成の電車が到着する。  一時間半に一本の路線だ。きっとこれに乗っているだろう。私は、そわそわして待っていた。 「どうも、お久しぶりです」 「おお。コータくんじゃないか」  コータ、と聞いて、心臓が跳ねる。来た。来てくれた。  駅舎の出入り口からそっと覗き込むと、駅員のおじさんと会話する幼馴染みの姿が見えた。 「二年ぶりかい?」 「ええ。本当は毎年帰るつもりでいたんですけど」 「はっはっは。若者も忙しいって事かね」  豪快に笑うおじさんは、町の郵便局を退職し、今はボランティアに近いような形で、駅員をやっている。 「今年も上まで行くのかい?」 「そのつもりです」 「そうかい。っと、あんまり忙しい若者に時間を取らせちゃいけねえや。さやちゃんも待ってるだろ。ほら、行ってあげなよ」  おじさんが、こちらを顎で指して、にんまりと笑う。  そういう理由だけで帰ってきてるんじゃないですから、と照れ臭そうにして、コータがこっちに歩いてくる。 「あっついな」 「そりゃあ、夏ですからねえ」  そのまま、二人で並んでゆっくりと歩き出す。二年ぶりの横顔を、ちらちら見つめた。  それだけで、つい笑顔がこぼれてしまう。  小さな町だ。大抵は、高校を卒業すると、就職するか進学するかで、都会に出て行く人がほとんどだ。  コータもその一人で、今は東京の大学に通っている。  どことなく垢抜けた感じがして、自分の服装と見比べ、「むう」と唇を尖らせる。  私だって、お洒落して、綺麗になったねとか、言わせたいのに。自分ばっかり格好良くなってさ。 「先に、上まで行くか」 「いいの? 着いたばっかりでしょ?」  ハンカチで汗を拭うコータを気遣ってみるが、「久しぶりだしな」と呟いて、どんどん先に行ってしまう。決めたら頑固なのも相変わらずだ。  仕方なく、「待ってよ」と小走りで、大きな背中に追いつく。
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