その先に、きっとあるもの。

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 なだらかな丘の上からは、町全体と、周辺の山々が見渡せる。  私達のお気に入りの場所でもあり、この町唯一のデートスポットでもある。  今も、コータが帰ってくると、必ずそこへ行く事になっていた。 「あらあら。コータくんじゃないの。また格好良くなっちゃって」 「いや、そんな事ないですって。お久しぶりです」  丘に続く坂道の、途中にある雑貨屋さんで、おばさんに声をかけられる。  雑貨屋さんと言えば聞こえは良いが、生活用品から、駄菓子に、金物まで。  とにかく総まとめにして、ごっちゃになって売られている、年季の入ったお店だ。  小さい頃は、迷路のようなこの店でよく走り回り、ひょいと掛けられているだけの鍋を落っことしたりして、こっぴどく怒られた。 「おばさんこそ、全然変わってないし、なんだか綺麗になりましたね」 「やだよ、もう。そんな事まで言ってくれるようになったの?」  おばさんは目を丸くしたが、物凄く喜んでいるようだった。  笑顔が凄くかわいくて、話しやすく、おおらかな人だ。町のみんなの相談役。頼れるお姉さんである。 「私の事は全然褒めてくれないんですよ、こいつ」  私もつられて、歯を見せて笑った。 「りんごソーダ、二つ下さい」 「わ。おごってくれるの?」 「毎度ありがとう。いつものってやつだね」 「あはは、二年ぶりになっちゃってますけどね」  丘に登る時の私達の定番。  昔ながらの、りんごソーダ。素朴な味と、アップルソーダとは言わない辺りが、また良いのだ。 「今日は暑いからきっと美味しいよ、はいどうぞ」 「ありがとうございます! それじゃあ早速」  手を伸ばした私をひらりとかわしたコータは、「いや、これは上に着いてから」とビンを軽く振ってみせた。 「ええ、いいじゃん飲んでいけば」  頬を膨らませて不満を漏らすが、「それも、いつものってやつだね」とおばさんまでコータに助け舟を出したので、仕方なく諦めて、「しょうがないなあ」と返した。
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