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嵐の夜
叫び声のような風の音と、窓ガラスを激しく打ち付ける雨の音で、僕はソファの上で目を覚ました。
どうやらテレビを見ているうちにいつの間にか眠っていたようだ。
『台風は勢力を維持したまま時速15kmの速度で九州を北上しており、佐賀県は今夜未明には暴風域を抜ける見込みです』
観ていた番組はとうに終わり、夕方のニュースを流していた。
独りきりの空間に不安を煽られ、カーテンの隙間から外を覗いた。
雨で滲んだガラス越しの景色は、先を急ぐように早く流れる暗く分厚い雲が太陽の光を遮り、いつもより早く夜を迎えようとしている。
『1時間に降る雨量は45mm以上のバケツの水をひっくり返したような雨が降るでしょう。
避難される方は各自治体の指示に従って行動してください。
洪水波浪警報が出ています。
続いて、県内のニュースです…』
テレビの画面の中のアナウンサーが淡々と状況を説明している。
壁掛けのカレンダーの今日の日付には赤いマジックで丸印がつけられ、その下の空欄には「ママ退院」の文字が書かれている。
ラックの上にある据え置きのデジタル時計はすでに18時を過ぎていて、病院から帰宅していてもおかしくはない時間だ。
たった一人家の中にいると、住み慣れたはずのこの空間すら居心地が悪く感じるのは、台風のせいだろうか。
『…先日、吉野ヶ里遺跡で発掘された女性と見られる首飾りを身に付けたミイラは、設けられた特別展示スペースにて明日から一般公開される予定で、当時の暮らしを知る貴重な資料として…』
その施設の様子を映す画面の左上に表示されている時刻は、18時18分になっていた。
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