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「…もうすぐ来るかな」
部屋の掃除は万全。
待ちに待った一週間ぶりの彼との再会にソワソワしていると、チャイムが鳴った。
彼だ。
急いで玄関のドアを開けると、そこには私が期待した表情とは違う表情の彼がいた。
「サト…ル…?」
「…おまたせ」
息を切らせながら、俯いて私の方を見ない彼に動揺を隠せないまま、とりあえず部屋の中へ入れた。
彼のこの表情の理由はなんなんだろう…。
別れ話?転勤?お金に困って私に?色んな不安要素が頭の中でぐるぐる駆け巡っていく。
理由を訊けないまま、先に沈黙を破ったのは彼の方からだった。
「あのさ…真剣に聞いてほしいんだけど」
「…うん」
ただならぬ雰囲気に私は固唾を飲んで次の言葉を待った。
「俺…なんかモンスターが見えるようになっちゃったみたいなんだ」
「え?」
予想外の答えに思わず聞き返してしまった。
…
モンスター?なにそれ?
「モンスターって、あのモンスターだよね?」
「そう、あのモンスター」
途端に、体の力が抜ける。
私の心配は杞憂に過ぎなかったという安堵と、そんなことかというあきれが入り交じり、妙な気持ちになった。
「本当に見えるんだ。それも…パックマンに出てくるあのコミカルなモンスターが」
「パックマンに出てくる…?」
その時私は理解した。
なんだ。
これは彼の悪ふざけで、最初の表情から演技。
私を騙すためのパフォーマンスだったんだ。
「もぉー。サトルったらふざけてそんなことばっかり。いい加減にしてよ」
笑いながら言う私に対して、サトルの表情は変わらない。むしろ、更に強張ったようにも思える。
「ねぇ、もうわかったから。ネタばらししてよ」
「本当なんだって!」
不意に彼が声を荒げた。
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